CASE3

事例紹介

前列左から、岩渕淳子さん、原田幸恵さん、腰塚潤一さん
後列左から、境田芽生さん、冨田将弘さん、鈴木聡さん、落川晃央さん

第8期 金賞「周りの役に立つことをしたい」お手伝いして感謝されるとさらに意欲が湧く好循環へ

~特別養護老人ホーム 柿生アルナ園での取組~

役立つことへの自信が精神的安定につながった

 原田さんは柿生アルナ園に入所して4年。認知症による不安症状を抱え、時折「物盗られ妄想」が見られるなど気持ちの浮き沈みがありました。一方で、「周りの人の役に立ちたい」という思いも一貫していたため、不安症状を緩和する手段として活動への参加意欲を生かす取組みを行おうとチームが意思を統一。原田さんに座ってできる軽作業のお手伝いをお願いし、やってくださったことに対して、必ず「ありがとうございます。助かりました」と言葉をかけるようにしました。
 こうして職員とのやり取りが活発になり、心のつながりが強まるにつれ、原田さんは「人の役に立てた」という充足感から表情が生き生きとしてきました。それとともに、不安をもたらす一因となっていた、他の入所者の些細な行動に一喜一憂することが少なくなっていったのです。お手伝いを続けるためにも足の力を衰えさせたくないという思いも強くなり、理学療法士による機能訓練に加え、自主的に歩行練習を行うようになりました。機能訓練が進むとともにお手伝いの意欲がさらに湧くという好循環が生まれたのです。
 今では気持ちが安定し、物盗られ妄想はほとんどなくなりました。お手伝いの輪が他の入居者にも広がると、周囲となごやかに談笑する場面も増えています。金賞を受賞して、「元気になれてよかったです」と満面の笑顔の原田さん。体調が気持ちに直結するので、チームは体調管理と転倒リスクに留意しながら現在の良好な心身状態を維持できるようサポートを継続しています。

利⽤者情報

原田幸恵さん(95歳)

要介護度
5→3
⽇常⽣活動作(ADL)
38→34

したい!×やりたい!を叶えるために 適量を見極めて、成功体験を積む

 原田さんにお手伝いを頼む際にチームが心がけているのは、原田さんの負担になり過ぎない、でも少し負荷がかかる程度の仕事量。その日の様子から、「20分なら集中して取り組める」など原田さんにとっての“適量”を職員が見極め、タオルをたたんでもらったり、少しの間他の入所者を見守ってもらったりするなどの仕事をお願いしています。お手伝い後に職員からお礼を言われると、「お願いされたことをやり遂げた」という自信になり、「またいつでも言ってね」と次のやる気につながったのです。成功体験を積んで、原田さんの笑顔も増えています。

歩行練習の様子

利⽤者の状況や
ケアの変化

R2.1
自宅で転倒、骨折し入院
R2.3
介護老人保健施設に入所
R2.6
特別養護老人ホーム柿生アルナ園に入所
要介護5
車いすは自力操作可能 理学療法士と歩行訓練
R3.3
クラブ参加やたたみ物のお手伝い、
他入所者との交流が増える
R4.7
コロナの影響で、活動量が落ちる
食事を喉につまらせることがある
R5.5
「ものがなくなった」などの発言がある
他入所者との口論が見られる
R5.12
プロジェクト参加
自主的な歩行訓練を行うように
R6.1
タオルたたみなどのお手伝いをする
周囲の方となごやかに話をしている
R6.2
要介護3に改善
R6.9
自力でのベッドから
車いすへの移乗動作が安定
金の認証シール受賞

生活相談員 岩渕淳子さん

原田さんは前向きで、「歩けるようになりたい」「お手伝いをしたい」という思いが一貫していました。そこで原田さんの意欲をサポートしようと、理学療法士の機能訓練以外にも、職員が付き添って歩いたり、負担になり過ぎない軽作業をお願いすることにしました。そして、やってくださったことに対して、必ず「ありがとうございます。助かりました」と言葉をかけることを通じて成功体験が増えていくにつれ、周囲の役に立ったという達成感が次のモチベーションとなり、精神的にも落ち着かれるようになりました。これからも体調管理に気を配り、転倒しないように見守りながら、タイミングを見計らった声かけや介入で今の機能を維持して頂きたいと考えています。

介護職員 腰塚潤一さん

原田さんは意思がはっきりしており、1日のルーティンも決まっているので、それを尊重して支援するようにしています。原田さんが精神的に不安定になり、物盗られ妄想が起きたりするのには、必ず何らかの意味があると思っています。そいうときは否定せず見守り、しばらく時間を置いて落ち着かれてから違う声かけをするなど、ネガティブな気持ちが続かないような対応を心がけています。原田さんのやる気はプロジェクトを通してより強くなりました。プロジェクトが終わったあとも、足踏みや車いすを自走してトイレに行くなどの習慣は身についており、ご自分で判断して行動されています。主体は原田さんであることを、このプロジェクトで改めて確認できました。またこれまで私たちが意識しないで行っていたケアも、場面場面で考えたり、振り返って他職種と話したりするようになりました。次のプロジェクトにもつなげていけると手ごたえを感じています。

管理栄養士 境田芽生さん

原田さんは逆流性食道炎があるので、苦痛なく原田さんが食べたいものを食べることができるよう心がけています。一時期、食事が喉に詰まる感じがするとおっしゃっていたので、常食のなかでも詰まり感がなさそうな食形態を提案し、消化のよいものに変更しました。おかずもひと口大に切るなど、食べやすくするひと手間をかけています。原田さんはプロジェクトに参加してほがらかになられ、「おいしかった」とか「今日は行事食なのね」などと声をかけてくださるので、次も喜んでもらおうというモチベーションになっています。プロジェクトに参加して、日々のケアの積み重ねを評価してもらい、やっているケアが認められたことが何よりうれしい。これでよかったんだということが目に見えてわかるのは、大きなやりがいです。

理学療法士 冨田将弘さん

原田さんは、意欲的かつ積極的にリハビリに取り組まれ、私が助言したこともすぐ実行しています。最初はふらつきが多く転倒リスクがあったため介助が必要でしたが、立位や歩行バランスが向上して介助が不要になり、歩行器を使って歩行練習もできるようになりました。現在はリスク管理をしつつ、原田さんが自分の力で歩くのを見守るようにしています。リハビリは週1回、短時間ですが、そのときに確認した状態変化を担当者に伝え、現場の日々の取り組みに反映してもらうようにしており、またその際、過介助にならないようにすることも伝えています。その結果、痛みを訴えることがなくなり、それが心の安定にもつながったと思います。笑顔が増えたので、リハビリの課題も増やしましたが、「つらいけれど、続けなきゃね」と意欲的に取り組まれています。