CASE1

事例紹介

左から、轟修一さん、澁谷晴子さん、黒木則行さん、黒木紀子さん(ご家族)、宮崎勇二さん、神長(菊地)亜紀さん、川﨑允嗣さん

第8期 金賞「杖なしで歩けるようになりたい」強い思いを応援したいとチームが団結

~在宅で複数のサービスを活用した取組~

体幹バランスや姿勢改善に注力。歩行の安定性を高める

 脳出血で入院した黒木さんは、手すりや介護ベッドを導入し環境を整えて自宅に戻りました。左手足に運動マヒや感覚障害がありましたが、杖歩行は可能で、通所リハビリで、歩行状態の改善を目指して週2回個別リハビリを行いました。プロジェクトに参加したのは、体力がついて通所リハビリが週1回になったころ。介護支援専門員は「杖なしで歩けるようになりたい」という強い思いのある黒木さんを応援したいと考えたのです。
 屋外歩行はできていたものの、前傾姿勢でつまずきやすかったため、体幹バランスや姿勢改善、歩行の安定性向上を目指して通所リハビリを継続するとともに、機能訓練型の通所介護を追加しマシンを使ったパワーリハビリを開始。定期的に姿勢チェックも行い、改善状況をチームで共有しました。
 もともと勤勉な黒木さん。自宅近くの散歩を日課にすると次第に歩行状態が改善し、周囲からも姿勢が良くなったとほめられるように。バス乗り場で転倒するアクシデントもありましたが、理学療法士が立ち上がり時の姿勢を意識するよう声かけをし、転倒を防ぐリハビリに重点を置いて取り組みました。その結果、安全に歩くため杖は欠かせませんが、毎日1時間程度の散歩ができるまでになったのです。「2階まで上れるようになる」「遠方で諦めていた同窓会に出席する」、さらに「生まれたばかりの孫にランドセルを買ってあげる」と段階を追った目標を設定し、リハビリに励んでいます。

利⽤者情報

黒木則行さん(77歳)

要介護度
4→2
⽇常⽣活動作(ADL)
31→25

したい!×やりたい!を叶えるために 5人の孫の存在がリハビリの原動力に

 「何といっても孫はかわいいよ」と黒木さんは目を細めます。生後3か月から小学6年生まで5人のお孫さんの成長が生きがいです。4歳のお孫さんには2年後、生まれたばかりのお孫さんには6年後、ランドセルを買うことを目標に、奥さまやお子さま、お孫さんたちが黒木さんの頑張りを支えています。「歴史好き」という共通の話題があるという6年生のお孫さんは、黒木さんのリハビリに役立ててほしいと鳥獣戯画のなぞり絵をプレゼントしてくれました。ランドセルを手にしたお孫さんの、「ありがとう」という笑顔が今から目に浮かぶようです。

お孫さんの写真を見ている様子

利⽤者の状況や
ケアの変化

R3.9
脳皮下出血。左手足に運動マヒ、感覚障害が残る
救急病院からリハビリ病院に転院
R4.1
要介護4
退院カンファレンス。自宅に戻ることに
R4.2
住宅改修完了、介護ベッドを設置し自宅に戻る
通所リハビリ週2回利用、入浴サービスも利用
R5.4
体力が向上し、自宅で入浴が可能になる
通所リハビリ週1回に
R5.6
機能訓練型通所介護を開始する
R5.7
プロジェクト参加
R5.10
要介護2に改善
R6.6
電車やバスを乗り継ぎ、外出の練習を開始する
通所リハビリでは階段昇降のメニューを追加
R6.9
金の認証シール受賞

介護支援専門員 澁谷晴子さん

黒木さんに、機能をどのように向上させていきたのかを聞き取りながらケアプランに反映しました。プロジェクト参加時は、ご家族に介護負担をかけたくないという思いが強く、体調を安定させて通所リハビリテーションや通所介護に通うというのが目標でした。その後、階段を使って2階に行く、バスに乗るといった段階を追った目標に向かって、黒木さんの目指す姿が実現できるように支援しています。今は立ち座りの動作も改善し、お一人で3000から5000歩、1時間程度さまざまなコースを散歩されています。黒木さんの生きがいはお孫さんの成長。退院する年に生まれたお孫さんの成長とご自分の回復を見比べながら、ランドセルを買ってあげるまで元気でいたいと頑張っています。

福祉用具専門相談員 川﨑允嗣さん

黒木さんには「リハビリをがんばって、自分の足で歩きたい」という強い思いがあり、奥さまも協力的でした。一方で万一転倒すると骨折や痛みにつながり、動けなくなる危険があります。それを防ぐために、福祉用具を使ってサポートしていきました。現在は介護ベッドを利用されており、立ち上がりに不安があることから黒木さんに合った高さに調整しています。福祉用具専門相談員は黒木さんのところに頻繁にお伺いするわけではなく、半年に1回の点検くらいです。訪問した際には、黒木さんの半年後を予想して、安全を第一にして無理しないようアドバイスしています。黒木さんのお宅に最初に伺ってから半年後に伺うと、歩行状態が見違えるように改善し、表情もまったく違っていて驚くと同時に喜びを感じました。これからも黒木さんが自立歩行できるよう、チームとして支援していきたいと思っています。

地域密着型通所介護 管理者 轟修一さん

通所介護では立ち座り動作の安定を目指して、6種類のマシンを使ったパワーリハビリを行っています。黒木さんは歩行時の姿勢が後ろのめりだったので、姿勢を重点的に矯正しました。リハビリの結果、歩行スピードが安定し、歩行時の介助も減って見守りだけですむようになりました。送迎車の中で、他の利用者さんと地域のことやお好きな植物の話などの会話をされており、そうしたコミュニケーションも「互いにリハビリをがんばろう」という意欲に結びついたと思います。黒木さんのご自宅周辺は急な坂が多いので、歩行バランスをとりながら転倒せずに散歩を続けてほしいと思っています。黒木さんのやる気にこたえたいとプロジェクトに参加しましたが、黒木さんを応援したことがスタッフのやる気にもつながりました。

通所リハビリテーション 健康運動指導士 神長(菊地)亜紀さん

集団体操を担当しています。当初はリハビリに乗り気でないように見えたときもありましたが、他の利用者さんと顔なじみになってお話をされるようになると意欲が向上しました。集団体操では、上半身、下半身、そして全身とそれぞれの部位を使いやすいようなプログラムを組んでいます。通所リハビリテーションでは、集団体操から個別リハビリまでの移動もすべてがリハビリ。移動時にも意識してほしいことを伝えるようにしています。黒木さんは個別リハビリが終わったあとにわざわざ戻ってきて「今日はありがとう」と声をかけてくださいます。それほど真面目な性格なので、細かい注意点も集中して聞いてくださり、それも改善の一因になっていると思います。表彰されて「皆さんのおかげです」とねぎらってくださいましたが、黒木さんのがんばりがあってこそ。黒木さんの笑顔が他の利用者さんにも広がっていけばいいなと思います。

通所リハビリテーション 理学療法士 宮崎勇二さん

バランスの維持を意識しながら、関節可動域訓練や筋力を落とさないリハビリを行いました。リハビリの際は黒木さんの動きを確認しつつ、左側空間が見えていなかったので「周りを確認しましょう」とか、動作に力が入りすぎていると「リラックスしましょう」などと声かけをしました。また急に立ち上がろうとされるので、立ち上がりの練習を繰り返したほか、立ち上がりを意識してもらうような声かけをしました。リハビリの目標は歩行の安定性の向上ですが、ご家族の要望もリハビリに取り入れ、転倒後は床からの起き上がりを、2階で生活できるようにしたいという要望で階段昇降の練習をプログラムに組み込みました。安全に歩けるようになっているので、この機能レベルを落とさずに在宅生活を続けてほしいと思っています。