CASE4
事例紹介

前列左から、木村利三郎さん(ご家族)、木村一夫さん、木村幸二さん(ご家族)
後列左から、掛水雄貴さん、吉村明子さん、村川陽一さん、長谷川知佳さん

変わらず穏やかな笑顔で、趣味を楽しむ生活をルーティンを尊重して
自立した生活を維持する
~特別養護老人ホーム ゆとりあでの取組~
日常生活動作をケア中訓練に
第6期事例集のNEW CASE2の取材以来1年ぶりに木村さんのもとを訪れると、変わらぬ穏やかな笑顔で迎えてくださいました。木村さんは第3期プロジェクト参加時から要介護3を維持しているそうです。脳梗塞の後遺症による右片麻痺はあるものの車いすを自走して、食後洗面所で洗顔、歯磨きをし、トイレも誘導なしで行くなど身の回りのことは自分でしています。そして朝4時からテレビで時代劇を鑑賞、午後は大相撲やメジャーリーグ、夜にはプロ野球を楽しむ……そんな「趣味を楽しむ生活を続けたい」というのが木村さんの希望です。
チームは木村さんの自立したルーティンを尊重し、「自分でできることは自分でやってもらう」ことをケアの柱に据えました。その際立ち上がりができるか否かが介護レベルを左右すると考え、「安全な立ち上がり動作ができる」ことを目標として、機能訓練指導員による毎日の集団体操と合わせて、トイレの立ち上がりやベッドへの移乗などの日常生活動作をケア中訓練として行ったのです。コロナ禍で中断していた訪問マッサージも再開しました。介護職員は、転倒リスクに対して細心の注意を払いつつ、木村さんの気持ちを汲み取ることを意識して支援しました。
家族のつながりが力に
木村さんが楽しみにしているのが、ご家族との面会です。4人の弟妹との笑いの絶えない会話が、心身の安定に大きく貢献しています。「倒れたときは、一生寝たきりになると言われたので、元気な顔を見ることができてうれしいです。1日でも長く今の状態を維持してほしい」と口をそろえます。

状態を維持することの意義
介護課長は、「普段は気づきにくいですが、入所以来10年も状態を維持していることのすごさを改めて感じます。加齢とともに状態が落ちるのは当然ですが、事故や病気など何ごともないことが木村さんの状態維持には大切です。生活の場である施設でいかに穏やかに過ごしてもらうか、これからも皆で考えながら取り組んでいきたい」と話します。
外出できるようになったら、「家族とカラオケに行きたい」という木村さん。次の目標が実現する日も遠くなさそうです。

特別養護老人ホームゆとりあは、第3期から入所者のほぼ全員がプロジェクトに継続して参加しています。プロジェクトは、あくまでもいつものケアの延長線上にあるものと位置付けていますが、プロジェクト期間が終了するタイミングで、ご家族へのアンケートを取って取組を振り返るとともに、参加者全員のプロジェクト結果を比較して、受賞した方のケアの共通点を分析しています。それが職員の意識の底上げや介護法へのヒントにつながっており、プロジェクトが介護の質を上げるきっかけになっていると感じています。

施設の外観

利⽤者の状況や
ケアの変化
特別養護老人ホーム ゆとりあ入所
筋力低下防止の機能訓練
(以降、毎年継続して参加)
による機能訓練とケア中訓練に変更
機能訓練指導員による訓練を継続
銀の認証シール受賞
ゆとりあ
介護職員 村川陽一さん

入所者の皆さんの状態が低下しないよう、常日頃からご自分でできることはやっていただくようにしています。木村さんについては、日常生活においてご自分でできることはたくさんありますし、私たちに何かしてほしいときには呼んでくださいますのでその点では安心していますが、転倒リスクがあるので注意を欠かさないようにしています。介護職員はその方の一番近くにいる存在なので、木村さんの気持ちを汲み取りながら話をお聞きしています。
介護支援専門員 長谷川知佳さん

特別養護老人ホームは集団生活なので、見たいテレビ番組など、木村さんとほかの入所者の方との希望が合わないこともありますが、双方の間に入って調整するようにしています。木村さんは入所以来要介護3を維持してこられましたが、食べこぼしが増えるなど機能の低下も出てきており、ご自身で食べやすいよう手づくりの台を置くなど工夫しながら支援しています。もちろん、可能な範囲で状態を維持していくことは大切ですが、機能低下などの変化していく部分も受け入れながら、ご本人が過ごしやすいように多職種で考えながら生活を支援しています。
看護師 吉村明子さん

木村さんには清潔を保って、皮膚トラブルが発生しないようにしています。またマヒのある側を怪我させないことも重要です。感染などが起きて、体力が低下しないように注意しています。木村さんの弟妹さんたちは木村さんのことを一番理解してくださっている大切な存在です。木村さんはもとより、ご家族ともしっかりコミュニケーションを取って、信頼関係を築くことを心がけています。
介護課長 掛水雄貴さん

木村さんは相撲やプロ野球のテレビ観戦など好きなことがはっきりしていて、毎日の楽しみがあることが状態維持に貢献していると考えています。チームとしても、木村さんの「趣味を楽しみながら過ごしたい」という明確な目標に向けた自立支援ができていると自負しています。自立支援においても、「できることは自分でする」ことをチームで応援しつつ、ご本人に危険がないか見守り、必要な際には職員が介入するというバランスが取れています。特別養護老人ホームという生活の場で、いかに穏やかに過ごしていただくかを考えながら、状態を維持することを意識して支援していきたいと考えています。