CASE2

事例紹介

前列左から、中野江里子さん、伊藤昭子さん、髙橋美智代さん、後列左から、土田直子さん、長井勇矢さん、星野裕子さん

第7期「金の認証シール」受賞
「ずっとここで暮らすために」
安心して暮らせる環境をつくる

~川崎市特別養護老人ホーム 陽だまりの園での取組~

ずっとここで楽しく暮らしたい

 自宅で転倒、骨折して入院した伊藤さんは自宅に戻ることが難しくなり、「陽だまりの園」に入所しました。拒食や拒薬があったため、栄養状態や体重が低下している状態でした。
 その後伊藤さんは徐々に施設に慣れ、「ここでずっと楽しく暮らしたい」という希望を口にされるようになりました。チームは、「できることは自分でやってもらい、伊藤さんのペースで穏やかに暮らしてほしい」と意思を統一。プロジェクト参加を決めたのです。 

利⽤者情報

伊藤昭子さん (91歳)

要介護度
4→3
⽇常⽣活動作(ADL)
34→36

不安を受け止め、
寄り添った言葉がけ 

 他方で、伊藤さんには「元気になったらここにいられないのでは」という不安もありました。チームが伊藤さんの不安を受け止め、「ずっとここで暮らしてほしいです。そのためにも元気になりましょう」と声をかけ続けると、次第に伊藤さんの気持ちが落ち着いていったのです。
 その際、チームが工夫したのはコミュニケーションの方法です。伊藤さんは高度難聴のため筆談での会話が中心でしたが、ジェスチャーを交えたり、口の動きやタッチングで伝えたりするうちに、互いの感情をくみ取れるように。それに合わせて伊藤さんの表情も和らぎ、笑顔が見られるようになったのです。

専門職による重なり合った支援

 柔道整復師は関節可動域訓練に加えて、伊藤さんの精神状態の変化に留意しながら日常生活動作訓練を行いました。車いすからの立ち上がり→歩行訓練と段階を追ったリハビリの結果、歩行器で歩けるまでになったのです。看護師は体調管理に加え健康回復教室などのリハビリにも取り組みました。さらに管理栄養士と連携して栄養状態の改善にも注力したところ、ミキサー食から刻み食に改善。体重も5キロ以上増えました。
 心身両面における多職種の協働と「少しずつ重なり合った支援」が実を結び、車いすを自操して自室と共有スペースとを自由に行き来するなど、伊藤さんの居場所ができています。「私が元気になって皆さんが喜んでくれるのがうれしい」 という言葉が、職員の新たな力になっています。

やりたいこと=生きることをあきらめないで

 プロジェクトには毎年半数以上の入所者が参加していますが、決して成果ありきではありません。いくつになっても、ご本人の意思が尊重されて暮らすことができる。そしてみんなが「長生きっていいこと」と自信を持って言える……それが真の「健幸」だと考えています。「1年後の花火大会を見る」など、私たちはその方の暮らしを長期的視点でとらえており、節目ごとに目標に取り組めるのもプロジェクトに参加するメリットとなっています。プロジェクトが、「長生きしてください」「ずっと一緒に暮らしたいです」と笑顔で言い切れる機会をつくってくれていることに感謝しています。

ご家族様との面会スペース

利⽤者の状況や
ケアの変化

R4.1
自宅で転倒し救急搬送される。
R4.2
要介護4
リハビリを目的に転院したが、
ほぼ寝たきりに。
R4.5
陽だまりの園 入所
R4.6
プロジェクト参加
R4.10
ミキサー食から刻み食に改善
R4.11
車いすでの行動範囲が広がる
R5.2
要介護3に改善
R5.9
歩行訓練をはじめる
金の認証シール受賞

陽だまりの園
介護主任 中野江里子さん

入所されたばかりのころ、伊藤さんは医療や介護への拒否感が強く、表情も硬かったです。難聴もあったので、職員はマスクを外して口元が見えるようにしてコミュニケーションをはかり、信頼関係をつくっていきました。そして伊藤さんの生活リズムを把握して自宅に近い環境をつくるとともに、自分でやりたいという思いを尊重して心を開いてもらうようにしました。すると、「ずっとここで暮らしていいんだ」と気持ちが落ち着かれたのです。

機能訓練指導員(柔道整復師)
長井勇矢さん

入所されたときは不安が強かったので、筆談でリハビリの内容をしっかり理解してもらってからリハビリをするようにしました。関節可動域訓練からはじめ、その後車いすからの立ち上がり訓練や折り紙や塗り絵などで指の動きを鍛える巧緻(こうち)機能訓練へと移行、現在は足ふみや歩行器を使った歩行訓練をするまでになりました。
車いすでの行動範囲も広がっています。施設の環境の中で伊藤さんがやりたいことができて、それが新しいモチベーションになるよう、他職種にも働きかけながら取り組んでいきたいと考えています。

管理栄養士 星野裕子さん

ご利用者に食への意欲を持っていただきたいと考え、刻み食でも食材ごとに刻むなど、見た目を大切にしています。伊藤さんは現在刻み食ですが、献立の説明に加えて硬さや飲み込みやすさも伝え、「むせないように気をつけて食べてください」などと声をおかけしています。伊藤さんは「全部食べるわよ」と前向きで、「これはどんな料理?」などと質問してくださったり、盛り付けをほめてくださったりするのでやりがいがあります。伊藤さんはミキサー食から刻み食に改善され、食形態が改善することはあまりないことなので喜びもひとしおです。

看護師 土田直子さん

伊藤さんはご自分でやりたいという気持ちが強いので、伊藤さんのペースを大切にしながら、できないことや困っていることがないか、生活を観察して見守るケアを心がけています。また今できることに喜びを感じていただきたいと考え、ゲームや創作活動などのレクリエーションを中心にした健康回復教室を行っています。日々のかかわりの中で、体調変化にすみやかに対応し、安心した生活を送っていただきたい。そしてたくさんの「楽しい」や「うれしい」を感じてほしいと思っています。

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